友金まゆみトリオ:ライブ全曲解説&ジャズを語り尽くす
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2008年12月6日取材 |
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12月6日の土曜日の夜、磯子区在住のジャズ・ピアニスト友金まゆみさん率いるジャズ・トリオのライブが、杉田劇場コスモスで行われました。
子育てにも一段落つきはじめた友金さんが、いよいよ本格的に演奏活動を再開させていこうということで、選曲もこれまでの「自己紹介のご挨拶」「ジャズ入門編」から一歩進んで、いっそう本格的なものへとシフトしていきたいと事前に語っていたとおりの、コアなジャズ・ファンも納得させる、熱い一夜となりました。 |
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杉田劇場ではこれが3回目となる友金さんのライブですが、メンバーがその都度、違うのも魅力のひとつ。今回は、ベースに河上修さん、ドラムにマイケル河合さんという、凄腕のベテラン・ミュージシャンとのトリオ編成。お二人のプロフィールを簡単に紹介させて頂きます。
河上修:16歳の時、音楽の世界へ。74年渡辺貞夫カルテットでデビュー。翌年にはスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルへ出演、大好評を博す。
リーダーアルバムは「ジャンプフォージョイ」「ディアオールドグッドウィン」「ミスターダブルベース」。ジャズの参加レコーディングは優に200を超える。ポップス・ニューミュージックの人気アーティストのアルバムにも多数参加。その顔ぶれは夏木マリ、クレモンティーヌ、中島美嘉、大江千里、稲垣潤一、コーザ・ノストラ、ムッシュかまやつ、和田アキ子、hiro、akiko、SMAP他、実に多彩な顔ぶれ。ピチカート・ファイブ小西康陽プロデュースの東京クーレストコンボのベーシストでもある。
マイケル河合:T-SQUARE(当時SQUARE)初代ドラマー。1979年CBSソニー入社。81年からジャズ制作、83年から大滝詠一を担当後、プリンセス・プリンセス、ユニコーンの制作が相次ぐ。種ともこ、井上睦都実、ピチカートファイブ、スキップカウズ、リリコなどの制作も行う。21世紀になって、同じソニー系列のマネージメントオフィス「ソニーミュージックアーティスツ」に籍を移し、メーカーを問わず原盤制作、ドラム、パーカッション演奏その他なんでもありの状態。最近ではT-SQUAREのアルバム、大江千里のアルバムプロデュース、ツアーメンバーなどで活躍中。
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第一部セットリスト&友金さんによる全曲解説 < >内は磯子マガジンの問いかけです。
<第一部は何曲ぐらいありましたっけ?> どのくらい弾いたんですかね。曲目も覚えてないんですよ。終わったらすぐ忘れちゃう。ほんとに即興ですよね(笑)。
※この全曲解説は、後日、ライブを録音したMDを聴きながらのインタビューでした。
01 : 枯葉 (Autumn leaves)
みんなが知ってるし、私も好きな曲です。一曲目にピッタリかなって。私の好きなピアニストのひとり、ハンク・ジョーンズが良くやってるんですよ。
この曲を河上さんとマイケルがどういうアレンジで来るかなっていう。「いやぁ、そう来るか」って。それがジャズなんですよね。河上さんとマイケルはしょっちゅう一緒にやってるからでしょうね、私は合わせやすいんです。二人の演奏に気持ちよく乗っかれるって感じですよね。
02 : 酒とバラの日々 (Days of wine and roses)
これも有名な曲ですね。日本では「酒バラ」って呼ばれてますよね。陽気な、明るい曲。「枯葉」と同じように日本でとっても人気のある曲だし、(ライブの序盤で演奏すると)いいかなと思って。
03 : You don't know what love is
好きなバラードのひとつなんです。去年の杉田劇場でもやりましたけど、今年はまた全然違うアレンジになりました。
アドリブのフレーズは勝手にその場で出てくるわけでもないんですよね。事前に(自宅での個人練習で)ネタをいっぱい用意しておくんです。それを(本番で)どう組み合わせるか。
どっからそのネタが出てくるかっていうと、作ってくれる人がいるわけじゃなくって、勝手に弾いてれば出るわけでもない。やっぱりいろんな人の演奏を聞いて、「あ、いまの面白そうだな」とか「これいいな」っていうフレーズがあったら、それを元に応用っていうんですか、いろいろ作っていって。で、いろんなキー(調)で練習して。全部で12調ありますからね。調によって指使いが違いますから。
そういう練習をしておかないと、本番で限られたものしか出てこないですね。
04 : ホワイト・クリスマス (White Chirstmas)
クリスマスも近いっていうことで。 <この曲で誰かジャズ・ミュージシャンの有名なアレンジがあるんですか?>
いえ、特別には。ホワイト・クリスマスをジャズではあんまり聞いたことないかも知れないですね(笑)。あ、私が好きなのはレイ・ブラウンの全曲クリスマス・ソングのアルバムなんですよ。あれはすごくイイ!
でも、ホワイト・クリスマスが入ってたどうかは覚えてないですけど(笑)。
05 : Your own world [オリジナル]
これは私のオリジナルです。15年ぐらい前かなぁ、アメリカにいるときに作りました。アルバムをジョー・ヘンダーソンと一緒に出すつもりだったんですよ。私のリーダー・アルバムで、彼をフィーチャリングする予定だったんです。マッコイ・タイナーがプロデュースしてくれるって言ってて。そのためにいろんな曲を作ったんですけど、そのうちの1曲です。
私が日本に帰らなきゃいけなくなったんで、残念ながらアルバム・リリースは実現しなかったんですけど。
これは今回のライブでは唯一、三拍子なんですよね。楽譜は直前に渡したんですけど、河上さんなんか自分で作った曲のように演奏してくれました(笑)。難しいんですよ、このコード進行は。
06 : Winter white [オリジナル]
これも私のオリジナルです。雪を見ながら書きました。今回はこの曲を入れて3曲オリジナルをやりましたけど、全部、さっきお話したアルバム用に用意した曲ですね。いま制作準備しているアルバムにも入れようと思ってます。
このバラードは河上さんが気に入ってくれたんですよ。ただ、バラードは一番難しいんです。速い曲じゃないんですよね、難しいのは。バラードの間(ま)の持ち方がやっぱり一番難しいんですよ。ゆっくりであればあるほど。
07 : Caravan
デューク・エリントンの曲ですけね。私この曲ね、小学生のときにエレクトーンでよく弾きました(笑)。エレクトーンは足でベースを弾きますからね〜、よくできましたよね。その頃、日本でラテンがはやっててね。
<一部はノリノリで終わろう、みたいな感じで選んだんですか?> たぶん(笑)。あのねー、何も考えてないんですよ(笑)。曲の長さや構成も事前に決めてあるわけじゃないので、やってみないと何分かかるかわかんないじゃないですか。だから時計見ながら、あ、そろそろ最後の曲かなって、流れで決めてるんです(笑)。
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というわけで、第一部・全7曲があっという間に終了。少し長めの休憩を挟んで、第二部が始まります。 |
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第ニ部セットリスト&友金さんによる全曲解説
08 : Speak Low
「ささやいて」っていうタイトルの曲なのに、ノリノリになっちゃった(笑)。メロディーは「Speak
Low」っていう感じなんですけどねぇ。
この曲、私がなんで好きかっていうと、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)が吹いたアレンジが大好きなんです。
09 : Blue Minor
ソニー・クラークの『Cool Struttin'』に入ってる曲ですね。
私のピアノは、ソニー・クラークに一番似てるって言われるかな。ソニー・クラークのノリ方が凄く好きなので、ノリの勉強するのに彼のピアノをすごく聞いたんですよね。ノリの勉強って一生ですからねぇ。納得いかないですよねぇ。
<河上さんが友金さんのピアノは音が太いとおっしゃってました> あははは。なるほど(笑)。たぶん、分厚いと思いますよ。例えば和音を弾いたときに薄くないんですよ。それは勉強しました。たとえば「C7」でも、ただ「ドミソシ」じゃなくて、どう組み合わせるか。あと私、単音でも音がおっきいんですよ(笑)。タッチが強いんです。それと音を入れるタイミングもありますよね。
10 : Recordame
<イントロの河上さんがかっこ良かったですね> そうそうそうそう!
思い出の曲ですね。この曲をレストランで弾いてたときに、(Recordameを作曲した)ジョー・ヘンダーソンが入ってきたんですよ。それで知り合いになれたんで(詳しいエピソードはコチラ)。Recordameを弾いたら「そのボイシングが違うんだよなぁ」って言われたりして。<ジョーさんはサックスですよね。それでもボイシングには厳しいんですか?>
あぁ、うるいさいですよ。耳はいいですからね。それはもう、もちろん。
11 : Sophisticated Lady
デューク・エリントンの曲ですね。中でも特に有名な曲です。デューク・エリントンの曲は何曲かやらないとって思ってたんで。
大変ですよ、ビッグ・バンドの曲をね、ピアノ・トリオでやろうっていうんだから。トリオじゃおさまんないですよね。<でもトリオでやりましたよね?>
あはははは。やっぱりトリオでやるには、ベースとドラムがよほど良くないと。そうじゃなきゃ管(管楽器)を入れた方が無難なんですよ。普通のトリオだと物足りないんです。河上さんとマイケルだったからトリオでいけたんですよね。
12 : Land of wonder [オリジナル]
これは私のオリジナル。ラテンです。
<タイトルにこめられた意味は?> 不思議の国のアリスみたいな(笑)。子ども向けに作った曲なんですよ。<ジャズで子ども向けの曲って多いんですか?>
いや、ないですよ。あまりないと思いますけど、明るい感じの曲を作りたいなって。この曲、難しいんですよ。ヒッツっていうんですか、ピッと合わなきゃいけないところがたくさんあって。でも(河上さん、河合さんに)楽譜を渡して、私が一回弾いたただけで「あぁ、あぁ、わかった」って言って、パシッと決まりましたから。素晴らしい!
ラクですよ〜(笑)。
13 : Skylark
ピアニストのモルグル・ミラー、日本ではマルグル・ミラーって言われてるんですけど、彼が弾いたのがすごく印象的で。よくアメリカでライブで聞いてたんで。確か、レコーディングもしてると思います。彼のリーダー・アルバムじゃなくて、他の人のリーダー・アルバムで。
<この曲はベース、ドラムがお休みでソロ・ピアノでしたが、ソロでやるのはどういう気持ちですか?>
アンサンブルと違って、伸ばしたり縮めたりが自由にできます。テンポ・ルバートっていうんですか。そのときの気持ちでいくらでもストレッチできる。でもその代わりサポートが無いから、全部自分の責任になりますね(笑)。
<クラシックの曲をソロ・ピアノでやるのと似た感じがありますか?> そうでもないです。クラシックは譜面に書いてあるとおりにやるじゃないですか。(ニュアンスの付け方も)譜面に書いてあるので。ジャズのソロ・ピアノは楽譜要らないですからね。メロディは決まってても、それをどうアレンジするかは自分ひとりでやるわけですから自由な反面、難しいところもありますね。それと、相手がいないので寂しい・・・っていうかツマンナイですよね(笑)。私はアンサンブルのが好きです。
14 : Body and soul
これは(ジョン)コルトレーンのアレンジからヒントを得ました。コルトレーンがすごく好きなんですよ、私。自分がピアニストなんで、ピアニストで誰が好き?って良く聞かれるんですけど、それよりミュージシャンとして一番好きなのがコルトレーンです。
15 : Cool struttin'
これは唯一ブルースですね。ブルースはやっぱり一曲入れたかったんです。コード進行がブルースなんですよ、12小節の。ブルースもね、16小節のもあるんですよ。いろんなのあるんですけど、これはジャズでは意外とシンプルな方のブルースですね。
でね、私ね、リズム・・・、タイミングですか、ソロ弾いてるときでもボイシング(和音)弾いてるときでも、かなり極限まで、きわどいところまで引っ張るんですよ。イチ・ニイ・サン・シイのなかで、遅らせたり早めたりの遊び?
すごく遊ぶんです。だからベーシストやドラマーがよほどしっかりしてないと、私に惑わされちゃうんです(笑)。
私がソロを弾いてるときに、河上さんがときどき「おあーーーーっ」って言うんですけど、それが私が遊んでるときなんですよ。私が引っ張ってるんです。遊べる相手なんですよ。だからやるわけで。私は遊べなかったら面白くないんです。
これはジャズ特有の話なんですけど「ド・ミ・ソ」でも、どこで入れるかのタイミングが面白いんです。ピッタリのタイミングでただ「ド・ミ・ソ」って入れたんじゃ面白くないので、私はずれない程度のギリギリのところまで遊ぶんですよ。遅らせたり早めたり。それが一緒にやってる人にとってはすごーく難しいと思う(笑)。<この曲は特にそういうのが出やすいんですか?>
出ますね、かなり(笑)。右手だけじゃなくて左手もそうですよね。ベースのバッキングもそうだし。
【アンコール】
16 : I didn't know what time it was
これはね、私も好きですけど、河上さんが好きな曲なんです。私の場合はソニー・クラークのアレンジをたくさん聞いてね、学んだ曲なんですけど。河上さんももともとビ・バップ系のミュージシャンが好きなんですよ。ソニー・クラークとかコルトレーンとかあのへんの好きなんで、私とは好みが合いますよね。新しいのでいうと、私もハービー・ハンコックとかもすごく好きですけど、どっちが好きかって聞かれたらバド・パウエルとかソニー・クラークとか、ほんっとにもう泥臭いジャズが好きなんですよ。今はそういうのやってもはやらないんですけど(笑)。
※ビ・バップ=ジャズのジャンル。詳しくはコチラ(Wikipedia)
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ライブ中、のりのりで体を揺らしていたお客様のひとり、小林千恵さんに、終演後、お話を伺いました。
「すごいアーティストの演奏が、こんな近所で聴けて、すごく良かったです。私はジャズが好きで、友金さんのことは人づてに噂を聞いていたので、杉田劇場でのライブは最初から見に来てるんです。今回もほんっとに、すごく良かったです!」 |
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河上修さんとマイケル河合さんにインタビュー
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さて、今回は区民記者として、岡村在住の石倉圭介さんに取材に参加してもらいました。石倉さんはプロのドラマーを目指して横浜や都内のライブハウスで音楽活動中。ジャズ・ドラマーの猪俣猛さんが校長をつとめるドラム・スクールの生徒さんということもあり、今回の取材にピッタリだとお願いした次第です(石倉さんはこの夏、猪俣賞を受賞したばかりです)。
石倉さんには、終演後に河上さん、河合さんへのインタビュアーもお願いしましたので、まずはその模様をどうぞ。ジャズの巨人たちはもちろん、ローリング・ストーンズやジェームス・ブラウン、クリーム、ピチカート・ファイブにメタリカ、さらには松坂投手にまで話が及ぶ、興味深いインタビューになりました。
--- 磯(磯子マガジン):河合さんと河上さんは知り合われて長いんですか?
河合(マイケル河合さん=ドラム):どれくらいかなぁ。
河上(河上修さん=ベース):いま平成何年ですか?
--- 磯:20年です。
河上:あ、じゃぁちょうど20年だ。平成元年に会ったから。その前から彼は俺のことを知ってて。
河合:そりゃぁ知ってますよね。(渡辺)貞夫さんと一緒にやってらっしゃいましたし。
--- 磯:どういうキッカケでお知り合いになったんでしょう。
河合:小西君(ピチカート・ファイブ)のあれでしょ?
河上:そうそう、そうそう。
河合:僕、小西君のソニー時代のプロデューサーだったから。そういう流れでね。
河上:東京クーレスト・コンボっていうバンドで何枚かアルバムを作るっていうんで、「ベースいないか」っていう話になって、マイケルが呼んでくれたんだと思う。
--- 磯:最近も一緒に演奏されることが多いですか?
河合:そうですね。
河上:スキーも一緒に行きます(笑)。
--- 磯:ジャズ・シンガーakikoさんのアルバムに友金さんが参加したのは河上さんの紹介ですか?
河上:そうそう。「いいピアノいませんか?」って言われて。
--- 石倉(石倉圭介さん):河上さんは、友金さんとはずいぶん長くやってらっしゃるんですか?
河上:20年以上ですね。
--- 石倉:河合さんは比較的最近お知り合いになられたとか?
河合:そうですね、僕は河上さんから紹介してもらって。実際に一緒に演奏したのはリハーサルも入れてまだ2、3回かな(笑)。
--- 石倉:河上さん、友金さんのピアノの特徴はどういうところだと思われますか?
河上:今夜、お聞きになったとおりです(笑)。あのね、音が太いんだよ。
--- 石倉:音が大きいということですか?
河上:いや、太いっていうのはね、ビ・バップをやってる人の特徴で・・・、つまり・・・、細くないってことなんだよ(笑)。マイケルもそうなんだけど、いる位置が違うんだよね。もちろん天才から言わせたら三人とも至らないとこはいっぱいあるだろうけど。ただ、やっぱり「類は友を呼ぶ」っていう部分においては、きっとそういうところにいるんだと思う。
--- 石倉:河上さんのベース・ソロで、すごい特徴的だったのが・・・
河上:足あげた?(笑)
--- 石倉:いえいえ(笑)。ベース・ソロのフレーズをスキャットで歌いながらやってらっしゃったところなんですが。僕もドラム・スクールで「歌え」ってよく言われるんですね。やっぱりフレーズは頭の中で常に歌ってる感じでやられてるんですか?
河上:あのね、管楽器や歌手の人たちはブレス(息つぎ)の位置っていうのが自然と身に付くのよ。苦しくなれば息吸うわけだから。
でも、弦楽器とかドラマーとかピアノなんてのは、弾けば音出るみたいなさ。だから、正しい呼吸というか、位置というか、(それを知るために)最初は歌うべきなんだよ。最初はね。結局、(セロニアス・)モンク(=ジャズ・ピアニスト)にしても誰にしても声出してるよね。
この歳になってもやってるのはさ、衰えないようにしてるんだよね。初心が衰えないようにっていうか。まぁ声出さないときもあるんだけどね。
だから「声が出てるからノッてる」というわけでもなくて。「出したくなったから出してんだよ、文句あっか」みたいな。そんな感じかな。ただ強いて言うなら、偉そうに聞こえるかもしれないけど、正しいブレスで音楽やりたいのよ。ソロのときはね。(※文字にしづらいので省略しますが、ここで河上さんがベースやドラムを口真似してのブレス位置の実践話が続きます。)
そうすればスイングするかなと。うまくいくか・いかないかじゃなくて、のれるか・のれないかがキーワードだからね。
だから、正しくありたいから声を出してるのよ。それだけ。僕、それドラマーから聞いたんだよ。ドナルド・ベイリー(=ジャズ・ドラマー)っていう人から。彼は僕の家にずーっと住んでたのね。
--- 石倉:えーっ? そうなんですか。
河上:うん。彼が「正しいブレスをするために、とりあえず声を出せ。そうすれば息を出す場所が自然と身に付くから」って。
--- 石倉:ありがとうございます。参考にさせて頂きます。ところで、僕はドラムであまりジャズをやったことがないんですけど、興味はありまして。今度ジャズのビッグ・バンドに参加することになったんですけど、ジャズって聞くとどうしても構えちゃうところがあるんです。それで伺いたいんですけど、ジャズをやられるときに心がけていることは、どんなところでしょう。
河合:いやぁ、やっぱりジャズっていう音楽ジャンルを好きなんじゃなくて、自分が過去に聞いてきて「マイルス・デイヴィスのこれいいなぁ!」とか、そういうのが無いとなんにも無いですよ。だから、いかにそれが好きかっていうことしかないと思う。
河上:すべてのキーワードはそこだもん。その「好き」の度合いがどれくらいなのか、そういう話。ロックだとかジャズだとかじゃなくて。
河合:たとえばメタリカ(ロックバンド)でもいいし、ジェームス・ブラウン(ファンクの神様)でもいいけど、やっぱりグルーブがあるじゃないですか。そのグルーブ感と同じように好きなものをジャズの中に求めて、そのグルーブ感を出そうとして演奏すればいいだけですよ。別にライド・シンバルをチッチキさせてなんとかっていう問題じゃなくて。ジャズならスイングする、ソウル系だったらグルーブがあるっていう状態にするためにどうしたらいいかっていうだけですよ。技術的なことは後でいい。
--- 石倉:そうですよね。すいません。馬鹿な質問したなと思いました。
河上:いやいや、違うオーディエンスというか、いろんな人のために素晴らしい質問なんだよ。
河合:誰とは言わないけどさぁ、すっごい技術があるけど、ロックをやってもそんな良くないし、4ビートやってもそんなよくない、両方できるけどそんなによくない人っていっぱい居るわけじゃん。フュージョンだけやってる方がいいだろうなっていう人が居るわけ。(ローリング・)ストーンズみたいのは無理だろうな、オスカー・ピーターソン(ジャズ・ピアニスト)、エド・シグペン(ジャズ・ドラマー)みたいのは無理だろうな、でも上手いねー、すごいねーっていう人はいっぱい居るわけ。だから何をやりたいかっていう、「感じてくれ!」っていうものがあるかないかだけだと思うんですけどね。
--- 石倉:僕もどうしてもテクニックから入ってしまうことが物凄くあるんです。
河合:だって旨いもん食ったことないのにさぁ、作り方だけ教わったって旨いもんなんかできないじゃん。「あぁ、旨い!」って思ったから作れるわけでしょ。
河上:入り方は俺の場合は何でもいいと思うんだよ。テクニックから入ったっていいと思うんだよ。だって詞から入って曲作る人もいるし、俺の友達なんかまずジャケットどうしようかって。それからイメージ膨らまして曲書いてるやつもいるよ。売れてるか売れてないか、それは別にして。でもそういう人もいるわけだから。
河合:ジャケット買いして成功するパターンってあるからね。やっぱ良かったって。
河上:そういうやり方がダメなのかっていうのも無いわけじゃん。俺なんかベースは一番やりたくない楽器だったからね。一番嫌いだったから。一番嫌いだったことやってんだから、人生うまくいかないもんだよ。
最初ドラムですからね、俺。クリーム(エリック・クラプトンが在籍したロック・バンド)が好きで、ジンジャー・ベイカー(ドラマー)が好きだったから。クリームのコピー・バンドやってたんだけど、ベースが下手くそでさ。結局自分がベースやってるわけだ。不思議なもんだよ。この歳になって本当に自分の仕事が天職かっていうと、意外とそうでもなかったりするんだけど。
河合:ずいぶん音楽専門誌的なインタビューになってきたね(笑)。
河上:あと、マイケルといつも話すんだけど、ジャズの場合、他の音楽とすごく違うところは、ブルースとはちょっと似てるんだけど、いいかげんなところ。すごいいいかげん。だけど、いろんなことが混じっていくと、「良い加減」になるっていう。そいういう話なんだよ。
だからそのニュアンスが「いいかげん」になるか「良い加減」になるか、それは練習量もあるだろうし、そのときの雰囲気もあるだろうし。まゆみがこう来たからとか、客がのったからとか、あそこにかわいい女がいたからとか、まぁいろんなことがあるわけだよ。
(レッドソックスの)松坂(投手)なんかもすごい立ち上がり悪いじゃない。1曲目のイントロダクションからスイングしてますって、俺、あんまり好きじゃねーな、そういうやつ。
あともうひとこと言いたいのは、楽器が上手いやつとジャズが上手いやつは違うって話しだよ。楽器が上手いやつはいーっぱい知ってるよ。俺より上手いやつ、いっぱい知ってるよ。でもジャズが上手いかっていうとそうじゃないわけ。
典型的なのはロン・カーターでさ、あの人ベース下手じゃん。だけどジャズはもんのすごい上手いわけだから。おっそろしくリズムが上手いわけだから。おっそろしくのり方が上手いわけだから。音の伸ばし方が上手いわけだから。だからベースが上手いと失うこともあるわけ。「下手だったらいい」って言ってんじゃないよ。「上手きゃいいのか」って話をしてんのよ。
河合:っていうかさ、単純にジャズって曲知らないとできないでしょ? いちいち譜面見てやるわけじゃないから。「この曲やるよ」って言われたら、その曲ができなかったら始まらないから。だから好きでいっぱい聞いてないと。
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インタビューでは熱く語ってくださった河上さんですが、こんなお茶目な一面も。 |
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--- 石倉:今日も曲順は決まってなかったんですか?
河上:あらかたは決まってるけど。ただ彼女(友金さん)がそのときの雰囲気で・・・。
河合:決めてたけど曲順表持ってないから、決めてないのと同じだよね(笑)。
河上:「次なに?」みたいな。譜面もありません、みたいな。だからいいかげんな世界なんだから。
河合:それ、世界がいいかげんなんじゃなくて、河上さんがいいかげんなだけじゃないの?(笑)
河上:いいんだよ! 俺が彼をさ、上手く説得してんだからさ(笑)。なんかの勧誘みてぇだな。「これ買いませんか、3億です」みたいなさ(笑)。せっかく決まりかけてたのに(笑)。
--- 磯:(笑)。ところで、今後も友金さんとのトリオでの活動を継続するご予定ですか?
河上:そのつもりです。
友金:ありがたいです。ありがとうございます。
--- 磯:CDリリースも?
河上:そうですね、考えてますよ。
--- 磯:最後にここは磯子区なので、磯子区や杉田という街の印象をお聞きしたいんですけど。お二人とも初めてですか?
河上:おれ初めてですよ。
河合:この辺は初めてだね。
河上:もうクルマで会場に入っただけだからね、印象・・・は無いね(笑)。
河合:僕は女房のお父さん、お母さんが蒔田に住んでんのね。だから、いわゆる横浜のど真ん中じゃない感じは似てるなって思いましたけどね。ちょっとノンビリかなぁ、みたいな。いい意味で昭和を感じるっていうかね。昔の東京みたいでいいなぁって思う。
--- 磯:お疲れのところ、どうもありがとうございました。
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【区民記者・石倉さんの編集後記】
Jazzって何? これが今回の私的なテーマだった。
12月6日の土曜日、杉田劇場で行われた、友金まゆみさんのJazzライブにお邪魔した。
メンバーは、ベースに河上修さん、ドラムにマイケル河合さんと言うトリオ構成。
「酒と薔薇」や「Caravan」と言ったスタンダードナンバーに、友金さんのオリジナルナンバーを加えた2部構成のコンサート。
今回、このコンサートにお邪魔して、あわよくばメンバーの方にお話をする機会が頂けたら、是非聞いてみたかったのが、「Jazzって何?」と言う事だった。
僕自身ドラマーと言うこともあり、普段なかなかこんなぶっちゃけた質問は誰にもできないのだが、磯子マガジンさんのご厚意で、インタビュアーと言う大役を仰せ遣ったので、恥かきついでに「ええぃ!!」と思って聞いてみたのだ。(インタビュー記事を参照)
時間の都合上、ベースの河上さん、ドラムのマイケル河合さんにしかインタビューできなかったのだが、ミュージシャンの卵の自分としては、物凄く貴重なお話を聞く事ができた。
普段、Jazzに馴染みのない方々の中には、映画「スウィングガールズ」の1シーンにあるような「なーんかJazzって、おっさんが聴く音楽だべぇ、ブランデーグラスなんか持ってよ〜」等と思われる方も少なくないのではないか?
そのような方には、是非一度、友金まゆみさんのコンサートに足を運んでいただきたい。
多分、皆さんが思うほど、Jazzって難しくないと思う。そんなに敷居は高くないですよ。
少しだけ、お洒落で贅沢な時間が流れる筈です。
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参考リンク
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友金まゆみ 公式サイト
横浜、新宿でのライブが続々と決まっています。1/26(月)には新宿Somedayにて、今回と同じメンバーでのライブです。詳しくは「友金まゆみ公式サイト」のスケジュール・ページでどうぞ。
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河上修 公式サイト
友金さん、河合さんとのライブはもちろん、自ら率いるレーベルでのCDリリース、これまでの活動歴など、河上さんの詳細情報は上記公式サイトでどうぞ。 |
過去の磯子マガジン記事
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記事の前半に掲載した友金さんによる全曲解説は、ともかね学園(屏風ヶ浦駅そば)で、お話を伺ったものですが、このとき、ピアノを弾いて頂いての撮影も行いました。それが下記の写真。
ライブではピアノは横向きにセッティングされることが多く、ピアニストの表情を撮影するのに苦労するので、この日は近距離で撮影させて頂きました。普通は撮影できない左側からの写真もどうぞ。 |
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