--- いま、BarBarBarには、スタッフは何人ぐらいいらっしゃるんですか?
竹:2階のジャズ・ライブ・レストランと1階のショット・バーを合わせて、社員とバイト両方で15名ですね。
--- 先ほどお話の中にも出てきましたが、支配人の下にマネージャーというポジションがありますよね。役割分担はどのようになってるんですか?
竹:支配人っていうのは全体的な、何にでも関わってくる仕事なんですけど、特に、対外的な仕事が多いですね。ブッキングってミュージシャン、つまり社外の人とコンタクトをとるじゃないですか。そういうことをするのがここでは昔から支配人て言われています。いわゆるお店の店長さんみたいなことをするのがマネージャーという。僕はもちろんお店にはいますけど、けっこう対外的な交渉ごとが多いです。
--- では、支配人の大事なお仕事であるブッキングについて教えてください。
竹:ブッキングは売り上げを作る、お店の骨格になる部分で、そこが一番重要ですよね。曜日、季節、行事、いろんな要素を考えながらミュージシャンを選んで、スケジュールを組んでいきます。行事ですとそうですね、例えば花火大会とか、すぐそばに横浜スタジアムがあるので、プロ野球の試合があるかどうか、とか。
--- 野球の有無まで考えるんですね。
竹:バッチリ全部は合わないですけど、そういうのを見越してやることもあります。8年ぐらいやってますんで、データを活かしてっていうことですね。最初はよく失敗しました。
--- どういう失敗ですか?
竹:入れちゃいけないような日に入れちゃったり。ウチは毎日、事前に決めたギャランティーをミュージシャンに払うシステムでやってます。チャージ・バック(客数に応じてミュージシャンの取り分が変わる仕組み)ではやらないので、お客様の入りが悪いと店が負担することになります。だから、支配人の責任で、集客できるスケジュールを組まないといけないんです。
でも、こちらの希望どおりにミュージシャンが予定を空けといてはくれない。逆に、向こうの言いなりに、入りたい日に入れてっても、集客はできません。全てが交渉なんですよね。今でもうまくいかない日はある。そういう苦労はありますね。
月単位でブッキングしていくんですけど、1ヶ月バチっと決まるのは年に1回あるか無いかですね。年に1回あったらいいほうじゃないですか。納得いくブッキングはなかなか・・・。
--- お客さんの入りには、給料日も関係あるんですか?
竹:当初は関係あると思っていろいろやったんですけど、あんまり関係ないですね。逆に給料日前だからダメっていうこともあんまり無いです。今は皆さんもうお給料は振り込みだから、楽しみたいときに楽しむっていう人がほとんどなのかな。懐具合とかじゃなくて。ボーナス月は関係ありますけどね。
--- ほかにブッキングで気をつける点は?
竹:ミスをしないことですね。
1ヶ月毎日違うミュージシャンが出演するんですよね。お正月5日間休みとして1年で360日、基本的に同じ月に同じバンドは出さないんで、そうすると30日あると30バンド。それを12ヶ月やらなきゃいけない。1個も間違えないで1年間やるのを僕はもう8年間やってるんで。
ジャズの場合、ミュージシャンはバンド単位じゃなくて、ひとりひとり別個に活動してることが多いんですよ。その人たちの組み合わせを考えて、全員の日にち・名前・時間・チャージを全部間違いなく、こういう月間スケジュールにして、それを続けていくのはなかなか。
最初の頃、間違えてダブル・ブッキングしちゃって。
--- ダブル・ブッキングっていうのは、どういうことですか?
竹:同じ日に2つバンドを入れちゃうっていうことです。あるバンドを先に入れてたのに、忘れてて別のバンドをブッキングしちゃう。で、始まる時間にバンドが2つ来ちゃった、みたいな。
さすがにそんなには経験してないですけど。1回か2回、あるにはありましたね。向こうの勘違いかもしれないけど、こっちの経験が浅いときは言えないので。これも勉強だなと思って、「すいませんでした」って謝罪して。
それと、支配人をやり始めた当時は全部ノートに手書きでしたけど、今はパソコンを使って、なるべくメールでやり取りしてます。どっちが間違ってたかがはっきりするので。
--- ちょっと話がそれますけど、僕は支配人の、お客様との電話の応対とか接客を拝見していて、以前ホテルかどこかにお勤めだったのかなと思ったんですけど。
竹:全く(笑)。先輩がたくさんいますから。手取り足取り全部教えてもらってる感じではないですけども。
入社した時点で、いい加減、大人だったんで(笑)、わかんなくてもあんまり聞けないというか。わかるふりしてました(笑)。まぁ、見よう見まねですよ、ほとんど全て。
経営的なことは本を買って読んだり。いまはインターネットにもたくさん情報があるので。経済用語とか数字の見方とか。もともと僕、理数系の大学だったんで、割と客観的な数字を信じるというか。おもしろがってやってました。
--- 「このバンドだと何人ぐらいお客さんが入って」というようなデータを?
竹:そういうことですね。ギャラに対して何人入ってるのか、とか。結果イコール売上とか客数。経営者からはそういうところを求められるので、客観的なデータが無いと。
それと、ミュージシャンに対して好き嫌いで判断してると思われるのはイヤなので、客観的な数字を言って「しばらくご遠慮ください」と。
それも最近ですけどね。3年ぐらいですけど、そういう風にできるようになったのは。
--- 数字を出してみると、どういうミュージシャンにお客さんが入るのか、傾向がわかりますか?
竹:エンターテイメント性の高い、お客様をちゃんと意識して演奏する出演者にはファンが付きやすい。それはハッキリしてますね。アーティストの存在としていいか悪いかは別として、お店にとって、ということですね。
僕はそんなにジャズを勉強したわけじゃないので、お客様が喜んでるかどうかに一番興味がある。気持ちいいのか、また来てくれるのか。ミュージシャンが「あぁ気持ちいい」って言っても、お客さんが3人ぐらいだったら、もうどうにもならないワケですよ、ビジネスとして。
そうじゃなくて、お客さんの方をちゃんと向いてる出演者ですね。そういう人達が支持を受けて、お客様から「次もまた来るよ」って言ってもらえます。
ただそう思っても1年360日、そういうアーティストだけをブッキングするっていうのはなかなか難しいですけど。いろんな要素が絡み合ってスケジュールができあがる。数値にはできないところがあるので、最初はたくさん失敗もしましたけど、やっぱり経験なのかなと思いますね。
--- そうすると、このスケジュールは支配人の作品みたいなものですね。
竹:そうですね、ほんっとに労力を使うので。翌月のスケジュールの最終入稿は、前の月の大体15日ぐらいなんですけど、その日は仕事が終わると乾杯したくなります(笑)。そういう意味で、普通の飲食店の店長とは違いますよね。ちょっと特殊かもしれないです。
だから大変ですけど、でも飽きないですね。すごく大変ですけど、飽きたなっていうときはあんまり無いです。お客様も毎日違いますしね。ライブも、まったく同じミュージシャンが出てもステージは違います。たぶんライブ・ファンていうか音楽ファンの人はみんなおんなじように思ってると思います。
--- 大体、目標どおりの集客になるんですか?
竹:ならないです! そうなったらたぶんね、ほんと僕、すごい人になれますよ(笑)。それは永遠の課題じゃないですかねぇ。100を目指してないと90は出ないじゃないですか。90目指したらたぶん70ぐらいしか出ない。なので、すごいもう忍耐ですよね。あとは正直に言うことじゃないですか?
ギャラのこととかも。長くお付き合いするので誠実じゃないと。
--- 話が戻りますが、エンターテイメント性って言うのは、例えば曲間のおしゃべりとか、そういうことも関係するんですか?
竹:それも大事ですね。曲間のMCとか、お客さんを“イジる”って言いますけどイジり方とか。
何にもMCしないで、お客様を引き込む人もいるんですけどね。ただ、良い悪いは別として、たぶんそういうタイプの人はあんまりウチ向きじゃないかもしれないですね。ウチではお酒飲んで、割とちょっと酔っ払って聴くシチュエーションなので。コーヒー飲みながら没入して聴いてる人はあんまりいないんで。
--- 選曲も大事ですか?
竹:もちろんですね。やっぱり耳なじみのある曲をたくさんやるのがいい場合もありますし、その出演者のファンの方だけで満席になるようなケースですと、そういうことはあんまりいらなかったり。それと、お客様のリクエストにたくさん応える人は、ファンもたくさんいますね。
という意味で、毎日、正解が違うので面白いって言えば面白いですし、戸惑うって言えば戸惑います(笑)。大体もう読めるようになりましたけど。
お客様を楽しませるのは難しいことでは無い気がするんですけど、技術的なことだけに頼る人も、いなくは無いです。そうすると独りよがりな感じになりがち。若いミュージシャンに多いですけどね。やっぱりそれは勉強だと思います。
こぼれ話:BarBarBarの2階は、むかしマジックというディスコだった
竹:実はここ、マジックっていう生演奏で踊るディスコだったんです。昔の横浜の遊び人はみんな知ってると思います。
一番向こうにソファーのVIP席があって、造りはこのまま。その当時から1階はBarBarBarで、1階と2階を結ぶ螺旋階段は無くて。
1987年ぐらいかな、ディスコが閉店して空いちゃったんで、誰か店をやってくれないかなって鶴岡が探してたんですけど見つからなくて、「じゃあ自分でやるわ」みたいな。それで、ライブは2階でやりましょう、1階はバーにしましょう、穴開けて螺旋階段作って1階と2階をつなげましょう、と。だからBarBarBarには、出入り口が2箇所あるんです。 |
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